
公開日: 2026年09月08日
カテゴリ: AI導入・活用
この記事の要点
- OpenAIのプロダクト責任者が「GPT-6 AstraのLow設定は、GPT-5.6 SolのHigh設定を上回る」と発言した(2026年9月、X投稿)
- ただしこれはSNS投稿であり、対象タスクや測定条件の詳細は公開されていない。すべての用途に当てはまるとは限らない
- 「高性能モデルを最大設定で使わせる」という研修設計の前提は、いま見直す価値がある
- 研修設計の優先順位は「どのモデルか」より「どのeffort levelで・何のタスクに使うか」を判断できる社員を育てることに移りつつある
- effort levelと用途別使い分けを研修設計の軸にすることで、コスト管理と学習効果を両立できる
読む前に確認しておきたい言葉
| 言葉 | 一言で言うと | 身近な例え |
|---|---|---|
| effort level | モデルの思考量の設定 | エアコンの風量を「弱・中・強」で切り替えるイメージ |
| GPT-6 Astra | OpenAIの現行最上位モデル | 新しく出た最上位グレードの機種 |
| GPT-5.6 Sol | Astraの旧世代にあたるモデル | 一世代前の上位グレード機種 |
| ベンチマーク | モデル性能の測定テスト | 車の燃費テストに相当する評価指標 |
AI推進担当に任命されてから数か月。ツールを選び、アカウントを払い出し、「使ってみてください」と社内に展開した。でも、実際に業務で使っている社員は一部だけ。使っていても、コピペ要約や定型文生成にとどまっている——。そういう状況が続いていませんか。
総務省「令和8年版 情報通信白書」によると、生成AIを何らかの目的で活用している企業の割合は86.4%に達しています。ツールの導入自体はもはや珍しくない一方で、「使いこなす」ところまで踏み込めているかどうかは、また別の問題として残っています。
「モデルをグレードアップすれば、もっと使えるものになるはずだ」と考えたくなるのは自然なことです。でも、新世代モデルをめぐるデータは、その前提を問い直す材料を示し始めています。具体的には、次の3つの思い込みが問い直されています。
- 思い込み①:モデルを最大設定(High)で使わせれば、自動的に成果が上がる
- 思い込み②:「どのモデルを使うか」を教えれば、研修は完了する
- 思い込み③:一度教えた研修内容は、モデルが変わっても有効なまま使える
この記事は、社内AI推進を担当している中小企業の情報システム担当・経営企画担当の方に向けて書きました。ツール選定や研修設計を担っているが、「何をどの順番で教えるか」「どのモデルを使わせるべきか」で迷っている方が、判断軸を整理するための記事です。
この記事で解決すること
- 「高いモデルを全開で使わせれば成果が出る」という前提がなぜいま見直す価値があるのかを理解する
- effort levelと用途別使い分けを研修カリキュラムに組み込む手順がわかる
- 自社の現状に合った研修設計の優先順位を判断できるようになる
ステップ1:「モデル選定=研修設計」という前提を外す
まず確認したいのは、「何を使わせるか」と「どう使わせるか」が別の問いであるという点です。
2026年9月、OpenAIのプロダクト責任者がXに投稿し、「GPT-6 AstraのLow設定は、GPT-5.6 SolのHigh設定より優れている。SolのHigh設定に満足していたなら、AstraのLowまたはMedium設定への移行を勧める」と述べました(ITmedia AI+報道)。
独立系ベンチマークのArtificial Analysisによると、GPT-6 Astra(Medium)の方がGPT-5.6 Sol(High)よりIntelligence Indexスコアが高く、知能面では優位という結果が出ています。一方で出力速度はSol(High)の方が速く、用途によってはSolが優位な場面もあります(Artificial Analysis調べ。この指標は継続的に更新されるライブ集計であり、取得タイミングによって数値が変動する可能性があります)。
ここから読み取れることは一つです。「どのモデルか」という問いの前に、「どのeffort levelで・どのタスクに使うか」を判断できる社員を育てることが、研修設計の中心になるということです。
モデルを最上位に切り替えても、社員が「とりあえずHigh設定で聞いてみる」という使い方を続けるなら、コストだけが上がります。逆に言えば、effort levelの使い分けを研修で教えることで、旧世代モデルのままでもコストと品質のバランスを改善できる余地があります。
前提の外し方:3つの問いに答えてみてください
- 今の研修は「モデルの操作方法」と「タスク別の使い分け判断」のどちらを教えていますか?
- 社員が「このタスクにはLowで十分か、Highが必要か」を自分で判断できますか?
- ツール変更・モデル更新があったとき、研修内容を更新するプロセスがありますか?
フィノジェン現場から
「モデルを変えれば社員が使い始める」という期待は、研修設計の問いと混同されやすいポイントです。ツール変更と教育設計は別のプロジェクトとして切り分けて考えることを、まずお勧めします。
ステップ2:研修カリキュラムの骨格を「タスク×effort level」で設計し直す
前提を外したら、次は研修の骨格を組み直します。
骨格の設計に使えるのは「タスクの難易度」と「出力の重要度」の2軸です。この2軸を掛け合わせると、effort levelの使い分け指針が導けます。
タスク分類の例(業種横断で使える枠組み)
| タスクの例 | 難易度の目安 | 出力の重要度 | effort levelの目安 |
|---|---|---|---|
| 定型メールの下書き | 低 | 低〜中 | Low |
| 社内議事録の要約 | 低 | 中 | Low〜Medium |
| 複数資料を統合した提案書の構成案 | 高 | 高 | Medium〜High |
| 法的・財務的なチェックが必要な文書のドラフト | 高 | 高 | High(+人間のレビュー必須) |
この表はあくまで出発点です。自社の業務に合わせてタスクを書き出し、どのeffort levelが適切かを研修の場で議論することが、社員の判断力を育てる最初の演習になります。
カリキュラム骨格の設計手順
- タスクの棚卸し:部署ごとに「AIに任せたい業務」を5〜10個書き出す。付箋やスプレッドシートでOKです
- 2軸で分類する:「難易度(高/低)」×「出力の重要度(高/低)」に並べ替える
- effort levelを仮割り当てする:上の表を参考に、各タスクにLow/Medium/Highを仮置きする
- コストを試算する:仮割り当てたeffort levelでAPIコストがどう変わるかを確認する(1か月の試算で十分)
- 研修テーマを決める:棚卸し結果をもとに「最初に教えるべき3タスク」を選ぶ
なお、GPT-6 AstraのAPI料金(Standard)はGPT-5.6 Solの約2.5倍ですが、特定のコーディング系タスクではAstraがSolより低コストになるケースも報告されています。単価だけでなく、タスク完了にかかるトークン数まで含めて考えることが大切です。
フィノジェン現場から
研修テーマを「AIの使い方全般」と広く設定すると、社員の学習優先度が定まりません。「まずこの3タスクで使えるようになる」と絞り込むことで、研修の設計も評価もしやすくなります。
▶ 「AIを入れる前に、経営層が自分で使って成果を出した」——freee CAIOの実践が示す、中小企業がAI導入を失敗させない「順番」の設計法 もあわせてご覧ください。
ステップ3:研修の「前提更新サイクル」を仕組みとして埋め込む
モデルの世代交代は、今後も続きます。今回のGPT-6 Astraの例が示すように、新しいモデルが出るたびに「どのモデルをどの設定で使わせるか」という判断は更新が必要です。
問題は、この更新を「誰が・いつ・どうやって」行うかを決めていない会社が多いことです。
研修カリキュラムに「前提更新サイクル」を組み込む方法は、大きく3つあります。
方法1:四半期レビューを設ける
3か月に1度、推進担当者が「現在使っているモデルの設定が適切かどうか」を見直す時間を確保します。モデルのリリースノートやベンチマーク情報(Artificial Analysisなどの独立系指標も活用)を参照し、必要なら研修内容を更新します。
方法2:社内の「AI使い方メモ」を更新型ドキュメントにする
Notionや社内WikiなどのツールにAI使い方メモを置き、モデルや設定が変わったときに都度更新できる形にします。固定のPDFマニュアルにしてしまうと、情報が古くなっても誰も更新しません。
方法3:「これはどのeffort levelで使えばいいか」を問い合わせできる窓口を作る
推進担当者へのSlackチャンネルやメールで、社員が気軽に相談できる仕組みを設けます。質問が集まることで、次の研修テーマも見えてきます。
フィノジェン現場から
研修を「一度やって終わり」にする会社と、「更新し続ける仕組み」として設計する会社とでは、半年後の社員のAI活用レベルに差が出やすくなると考えられます。更新サイクルの設計を研修設計と同時に考えることをお勧めします。
▶ 「使わせる仕組み」が先だった——老舗みそメーカー・ハナマルキがGemini浸透率86%を実現した規定・共有・教育の3ステップ もあわせてご覧ください。
よくある失敗とその対処
- 失敗①: 最上位モデルを最大設定で全社に展開したが、コストが想定の3倍になった → 対処: まず部署単位・3タスク限定で試験導入し、タスク別のeffort levelとコストを測定してから全社展開の判断をする
- 失敗②: 「ツールの操作方法」だけを研修したが、社員が何に使えばいいかわからないまま → 対処: 操作方法より先に「自部署のどのタスクに使うか」を研修の第一テーマにする。業務棚卸しが研修の出発点になる
- 失敗③: ベンチマーク数値を見て「Astraが最強」と判断し、全タスクをAstraに切り替えたが、速度が遅くて使われなくなった → 対処: ベンチマークは参考指標であり、実業務での再現を保証しない(独立系メディアの分析によれば、こうした限界はOpenAI自身のベンチマーク解説でも触れられているとされる)。少量のタスクで自社での挙動を確認してから判断する
フィノジェンの見解:研修設計の優先度マトリクス
読者の会社が今どの段階にあるかによって、取り組むべきことの順序が変わります。
「社員のAI活用レベル」と「研修設計の整備度」の2軸で現状を確認してください。
| 研修設計の整備度:低(場当たり的・未整備) | 研修設計の整備度:高(カリキュラムあり・定期更新あり) | |
|---|---|---|
| 社員のAI活用レベル:高(自発的に業務で使っている) | 個人スキルに依存しており、属人化リスクが高い状態。まず「タスク×effort level」の使い分けルールを文書化し、組織の共有知にすることを優先してください | 理想的な状態に近い。次のステップは、モデル世代交代に対応できる「前提更新サイクル」を研修設計に組み込むことです |
| 社員のAI活用レベル:低(ほとんど使われていない) | 多くの会社が最初に直面する状況です。モデル選定より先に「どのタスクに使うか」の業務棚卸しから始めてください。ツールはMicrosoft Copilot・Notion AI・Slack AIなど、すでに使っているサービスの中に組み込まれているものから試すと導入ハードルが下がります | 研修の仕組みはあるが、使われていない状態。研修内容が「操作方法」に偏っていないか見直し、業務タスクと結びついた演習を追加することを検討してください |
あなたの会社はどこに当てはまりますか?
よくある質問
Q. effort levelの設定は、ChatGPTやCopilotのどこから変えられますか?
モデルやサービスによって設定箇所は異なります。APIを直接使う場合はreasoning_effortパラメータで指定できます。ChatGPT(ウェブ版)ではモデルによって「思考モード」の切り替えが画面上に表示される場合があります。Microsoft Copilotなどの組み込み型ツールでは、エンドユーザーがeffort levelを直接指定できないケースもあります。自社が使っているサービスの公式ドキュメントで確認することをお勧めします。
Q. GPT-6 AstraとGPT-5.6 Sol、どちらを社員に使わせるべきですか?
一律に「どちらが正解」とは言えません。難易度が高く出力の重要度が高いタスクにはAstraが向く場面がある一方、速度を重視する定型処理ではSolが優位なケースもあります。まずこの記事のステップ2で紹介した「タスク×effort level」の分類を自社の業務で試し、コストと品質のバランスを確認してから判断することをお勧めします。
行動プラン
今週中にできること(コストゼロ・1時間以内)
- 自部署で「AIに任せたい業務」を5つ書き出し、「難易度(高/低)」×「出力の重要度(高/低)」で並べ替えてみる
- 現在使っているAIツールのeffort level設定がどこにあるか、公式ドキュメントで確認する
今月中にできること
- 書き出した5タスクのうち1〜2つを選び、Low設定とHigh設定で実際に試して出力の差を確認する。結果を1枚のメモにまとめ、推進担当者間で共有する
3か月後の理想像
自社の主要タスクについて「どのeffort levelを使うか」の判断基準が文書化されており、研修内容がタスクと結びついた演習を含む形になっている状態。
参考文献
-
GPT-6 Astraの「low」はGPT-5.6 Solの「high」より高性能? 公式が推奨 - https://www.itmedia.co.jp/aiplus/article/2609/07/2000001209/
└ OpenAIプロダクト責任者によるeffort level推奨発言の一次報道として参照 -
GPT-6 Astra (medium) vs GPT-5.6 Sol (high): Model Comparison | Artificial Analysis - https://artificialanalysis.ai/models/comparisons/gpt-6-astra-medium-vs-gpt-5-6-sol-high
└ Intelligence Index・速度の方向性に関する独立系定量比較として参照(数値は継続的に更新されるため、方向性のみ本文に反映) -
GPT-6とは?Astraの性能・料金・GPT-5.6との違い【2026年9月最新】 | JAPAN AI ラボ - https://japan-ai.co.jp/media/10406/
└ API料金比較(Solの約2.5倍)とタスク完了コスト比較の整理として参照 -
GPT-6 Astraのベンチマーク結果と、その読み方 | Codex for Business - https://fyve.co.jp/codex/articles/gpt-6-astra-benchmark-scores
└ OpenAI公式ベンチマークの注記(最大effortでの測定・本番との差異)に関する独立系メディアの解説として参照 -
総務省|令和8年版 情報通信白書|生成AIの業務利用状況 - https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd121130.html
└ 生成AIを活用している企業の割合(86.4%)の一次情報として参照
著者より
「どのモデルを使わせるか」という問いに先に答えようとする会社ほど、研修設計が後回しになりがちです。モデルは更新され続けますが、「タスクを見極めて設定を判断する」という思考の型は、モデルが変わっても使い続けられます。今回のAstraをめぐるデータは、その順番を改めて確認する機会として読んでいただけると、推進担当者の判断軸が少し整理されると思っています。
株式会社フィノジェン 代表 角 浩太
