
公開日: 2026年10月22日
カテゴリ: AI導入・活用
この記事の要点
- Business Insider Japanは、米国の大手法律事務所が汎用AIの導入に続き、自社の取引履歴や訴訟記録を活用するシステム構築へ進んでいると報じています
- この動向だけで、AI活用が進まない原因を「文書整理の不足」と断定することはできません
- AIの回答に自社の判断基準を反映したい場合は、ツールを替える前に、参照させる文書と権限を確認する方法があります
- この記事では、中小企業が小さく試すための手順を「文書の選定、整理、ツール選択」の3ステップで紹介します
読む前に確認しておきたい言葉
| 言葉 | この記事での意味 |
|---|---|
| RAG | 指定した文書などを検索し、その内容を参照してAIが回答する仕組み |
| 参照範囲 | AIが回答を作る際に確認できるファイル、サービス、Web情報の範囲 |
| 知識資産化 | 社内の手順や判断基準を、必要な人が再利用できる状態に整えること |
| Gemini Notebook | Googleが提供する、登録した資料をもとに質問や整理ができるサービス。旧称はNotebookLM |
| Copilot Notebooks | Microsoftが提供する、指定した資料をまとめて参照できるAIワークスペース |
法律事務所での場面を例にします。
スタッフがAIに「この契約書の注意点を教えて」と質問すると、一般的な確認事項は返ってきます。一方、事務所独自のひな形や過去の判断記録が参照範囲に入っていなければ、その内容は回答に反映されません。
ChatGPTを含む現在のAIサービスには、ファイルを添付したり、組織の情報源を接続したりする機能があります。ただし、参照できる情報、引用の表示方法、アクセス権限、データの扱いは、製品や契約によって異なります。
Business Insider Japanは2026年10月19日、米国の大手法律事務所がOpenAI、Harvey、Microsoft、Legoraなどのツールを導入した後、自社の取引履歴や訴訟記録を生かすシステム構築へ進んでいると報じました。
同記事が扱うのは、米国の大手法律事務所による投資事例です。すべての企業に同じ投資や仕組みが必要だという意味ではありません。
中小企業がこの動向から取り入れられるのは、AIに何を参照させるかを先に決めるという考え方です。ここからは、少数の文書で検証するためのフィノジェンの提案です。
この記事で解決すること
- AIに自社の業務ノウハウを参照させる準備を把握する
- 文書の選定からツール選択までの順序を決める
- 今週着手する作業を1つ決める
ステップ1 業務で繰り返し使う文書を5件選ぶ
最初に行うのは、ツール選びではなく対象文書の選定です。
次の問いに答えながら、手元のファイルを確認してください。
- 新しいスタッフに最初に読んでもらう資料はどれか
- 顧客から似た質問を受けたときに参照する資料はどれか
- 担当者による説明の違いを減らすために使っている資料はどれか
該当する文書から、まず5件を選びます。
5件という数は製品上の条件ではありません。短期間で内容を確認しやすくするための、今回の進め方です。1〜2件しかない場合は、その件数から始められます。
Word、PDF、テキストなど、文字を検索できる文書を優先してください。手書きメモや画像だけの資料は、内容を確認できるテキストへ直してから対象にします。
フィノジェンの提案
「全部必要」と考えると選定に時間がかかります。最初は「新人に最初に渡す資料」という基準で絞ると、対象を決めやすくなります。
ステップ2 選んだ文書を人とAIが確認しやすい状態に整える
選んだ文書について、次の項目を確認します。
| 確認項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| ファイル名から内容が分かるか | 回答の根拠になった資料を人が探しやすくするため |
| 作成日または更新日が分かるか | 古い手順を参照していないか確認するため |
| 手順だけでなく判断条件が書かれているか | AIの回答と社内ルールを照合しやすくするため |
| 顧客名、個人名、案件番号が含まれていないか | 利用するサービスへ登録してよい情報か判断するため |
| 閲覧できる人が決まっているか | 本来見られない人へ文書が共有されるのを防ぐため |
たとえば「最終版2.docx」という名前では、どの資料か判断しにくくなります。「顧問契約説明資料_2026年10月版.docx」のように、内容と時点が分かる名前へ変更します。
判断の理由が口頭でしか共有されていない場合は、担当者に確認して文書へ追記します。ここでの目的は、文書を大量に作ることではありません。AIの回答を見た人が、元のルールと照合できる状態にすることです。
顧客情報や個人情報が含まれる場合は、匿名化するだけで登録可能と判断せず、自社の取扱ルールと利用サービスの契約条件を確認してください。確認が終わるまではアップロードを保留します。
ステップ3 参照範囲と契約条件からツールを選ぶ
文書を整えた後、次の順番で候補を比較します。
- 何を参照させたいか
- 回答から元の文書を確認できるか
- 既存のアクセス権限をどう扱うか
- 自社の契約で利用できるか
- 入力データがどのように扱われるか
ここでは、Gemini Notebook、Copilot Notebooks、ChatGPTを例にします。どの製品も契約や管理設定によって利用できる機能が変わるため、製品名だけで判断しないでください。
Gemini Notebookを使う場合
Gemini Notebook(旧称NotebookLM)は、登録した資料をもとに回答し、参照箇所を引用として表示します。現在のアクセス先はnotebook.google.comです。
試す際は、次の順番で進めます。
- 使用するGoogleアカウントが個人用か、Google Workspaceの組織用かを確認する
- 組織用アカウントの場合は、対象のWorkspace契約と管理者設定を確認する
- 新しいノートブックを作成し、確認済みの文書を3〜5件追加する
- 実務で聞きたい質問を入力する
- 回答の引用を開き、元の文書と一致しているか確認する
個人のGoogleアカウントでは、アップロードした内容は基盤モデルの学習に直接使われません。ただし、評価ボタンなどからフィードバックを送信すると、質問、アップロード資料、回答を含む関連情報が人による確認やサービス改善の対象になる場合があります。機密情報を含む状態でフィードバックを送らないでください。
対象となるGoogle Workspace契約では、アップロードしたファイル、チャット、回答は人による確認や生成AIモデルの改善に使われません。適用条件は契約によって異なるため、管理者に確認します。
Copilot Notebooksを使う場合
Copilot Notebooksは、ノートブックへ追加した参照情報をもとに回答するMicrosoftのサービスです。
組織で作成するには、Microsoft CopilotまたはCopilot Chatの対象ライセンスに加え、SharePointまたはOneDriveのサービスプランが必要です。利用できる参照元もライセンスで異なります。
Copilot Chatでは、PDF、Word、Excel、PowerPointなどの標準的なファイルを追加できます。SharePoint、OneDrive、Teamsなどを参照元に使う機能は、Microsoft Copilotライセンス側で提供されています。
共有時には別の注意があります。Copilot Notebookを共有すると、参加者がノートブックを編集できるだけでなく、紐づけたファイルへのアクセス権が付与される場合があります。共有前に、管理者と次の点を確認してください。
- 利用者ごとのライセンス
- SharePointまたはOneDriveのサービスプラン
- 参照させるファイルの現在の権限
- ノートブック共有後に付与されるアクセス
- 退職や異動時の所有者変更とデータ管理
Microsoftは、Copilot Notebooksのユーザーデータを大規模言語モデルの学習には使用しないと説明しています。ただし、自社の契約、保存場所、保持期間、管理ポリシーは別途確認が必要です。
ChatGPTを使う場合
ChatGPTでも、会話へのファイル添付や、対応する外部サービスとの接続によって、自社文書を参照できます。
ChatGPTのCompany Knowledgeは、Business、Enterprise、Eduの対象ワークスペースで利用でき、接続先で本人に認められた範囲の情報を参照します。利用には、ワークスペース側の許可、接続先の認証、権限設定が必要です。
OpenAIは、ChatGPT Business、Enterprise、Eduのデータを既定ではモデル学習に使わないと説明しています。個人向けプランではデータ利用の設定が異なるため、ファイルを登録する前に「データコントロール」とフィードバック送信時の扱いを確認してください。
よくある失敗と対処
| 起きやすい状態 | 対処 |
|---|---|
| 最初からすべての文書を整理しようとする | 対象業務を1つに絞り、最初に使う文書だけ選ぶ |
| 顧客情報を含む文書をそのまま登録する | 匿名化、契約条件、社内ルールを確認してから登録する |
| 回答だけを読み、引用元を確認しない | テスト時は回答と元の文書を必ず突き合わせる |
| 共有後のアクセス権を確認していない | 共有前後の権限を管理者と確認する |
| 使う場面を決めずに試す | 「問い合わせ回答の下書き」など対象業務を1つ決める |
「AIに詳しいベンダー」は山ほどいる——Anthropic×国内SIer連携を読み解くと見えてくる、支援先選定の判断軸 もあわせてご覧ください。
AIに任せる業務の範囲については、「AIが自動判断」は危ないのか?OpenAI事案から学ぶ業務設計の線引きで整理しています。
フィノジェンの見解 小さく試すための確認フロー
次の質問に沿って、着手する場所を決めてください。
Q1. 業務で繰り返し参照する文書がありますか?
はいの場合は、Q2へ進みます。
いいえの場合は、新人へ説明している内容や、顧客からよく受ける質問を文書にするところから始めます。
Q2. 顧客情報や個人情報を除いた状態で試せますか?
はいの場合は、Q3へ進みます。
いいえの場合は、匿名化の方法と社内ルールを決めます。利用サービスの契約条件を確認できるまでは、登録を保留します。
Q3. 組織で利用しているAIまたはグループウェアがありますか?
Google Workspaceを利用している場合は、Gemini Notebookのデータ保護条件と管理設定を確認します。
Microsoft 365を利用している場合は、Copilot Notebooksのライセンス、SharePointまたはOneDriveのサービスプラン、共有権限を管理者に確認します。
ChatGPTの組織向けワークスペースを利用している場合は、Company Knowledgeや接続先が有効か確認します。
いずれにも当てはまらない場合は、機密情報を含まない文書で試せるサービスを選びます。個人アカウントを使うときは、データ利用条件と設定を先に確認してください。
よくある質問
Q. 文書が5件に満たなくても始められますか?
始められます。1〜2件でも、回答が文書に沿っているかを確認できます。最初から件数を増やすより、質問と引用元を照合できる範囲で試してください。
Q. ITの専門担当者がいなくても試せますか?
文書の選定と整理は、業務を知る担当者だけでも進められます。組織のファイルや顧客情報を扱う段階では、契約管理者や情報管理を担当する外部業者への確認が必要です。
Q. Gemini NotebookやCopilot Notebooksは、ChatGPTと何が違いますか?
ChatGPTにもファイル添付や組織情報の参照機能があります。「汎用AIか専用ツールか」だけでは区別できません。次の条件を比較してください。
| 比較項目 | Gemini Notebook | Copilot Notebooks | ChatGPT |
|---|---|---|---|
| 主な参照範囲 | ノートブックに追加した資料 | ノートブックに追加した資料。ライセンスによってSharePoint、OneDrive、Teamsなども対象 | 添付ファイルや接続したサービス。Company Knowledgeは利用可能な接続先を参照 |
| 根拠の確認 | 回答内の引用から元資料を確認 | ノートブックの参照情報と元ファイルを確認 | 回答に含まれる引用やソースリンク、添付した原文を確認 |
| 権限 | アカウント種別と共有設定を確認 | 共有時に紐づくファイルへのアクセスが付与される場合がある | 接続先の既存権限とワークスペース設定が適用される |
| 契約条件 | 個人アカウントとWorkspaceで異なる | Copilotの種類とSharePoint、OneDriveの条件で異なる | 個人向けとBusiness、Enterprise、Eduで異なる |
| データ利用 | 個人利用ではフィードバック送信時の扱いに注意。対象Workspaceでは保護条件が異なる | ユーザーデータを大規模言語モデルの学習に使用しないと案内されている | 組織向け対象プランは既定で学習に使われない。個人向けは設定確認が必要 |
製品名ではなく、自社が参照させたい情報と契約条件を基準に選んでください。
行動プラン
今週中に行うこと
業務で繰り返し使う文書を5件まで選びます。顧客名、個人名、案件番号が含まれていないか確認し、現在の閲覧権限も記録してください。
今月中に行うこと
管理者と契約条件を確認したうえで、対象業務を1つ決めます。確認済みの文書を1つのツールへ登録し、実務で使う質問を5問試します。
各回答について、次の3点を記録します。
- 回答が元の文書と一致しているか
- 根拠となる箇所を確認できるか
- 回答に必要だが、文書に書かれていない情報は何か
3か月後に確認すること
対象業務でAIを使った記録を振り返ります。文書の更新漏れ、回答と原文の不一致、不要なアクセス権がないかを確認し、継続する業務と見直す業務を決めてください。
目指すのは、すべての判断をAIに任せる状態ではありません。AIが文書から答えられる内容と、人が判断する内容を分けられる状態です。
参考文献
-
Business Insider Japan「法律事務所、AIツール導入から独自の知識を生かすシステム構築へ」
https://www.businessinsider.jp/article/2610law-firms-building-ai-based-on-their-own-data-expertise/
└ 米国の大手法律事務所が、自社の取引履歴や訴訟記録を活用するシステム構築へ進む動向を伝えた報道 -
Google「Privacy and Terms of Use in Gemini Notebook」
https://support.google.com/gemininotebook/answer/17004255
└ 個人アカウント、Workspaceアカウント、フィードバック送信時のデータ利用条件を確認 -
Microsoft「Frequently asked questions about Microsoft Copilot Notebooks」
https://support.microsoft.com/en-us/microsoft-365-copilot/frequently-asked-questions-about-microsoft-365-copilot-notebooks
└ 必要なライセンス、SharePoint・OneDriveの条件、共有権限、データ利用を確認 -
OpenAI「Company knowledge in ChatGPT」
https://help.openai.com/en/articles/12628342-company-knowledge-in-chatgpt
└ 対象プラン、接続先の権限、管理者設定、ソース確認の条件を確認 -
OpenAI「How your data is used to improve model performance」
https://help.openai.com/en/articles/5722486-how-your-data-is-used-to-improve-model-performance
└ 個人向けサービスと組織向けワークスペースのデータ利用条件を確認 -
Google「NotebookLM is now Gemini Notebook」
https://blog.google/innovation-and-ai/products/gemini-notebook/notebooklm-gemini-notebook/
└ NotebookLMからGemini Notebookへの名称変更を確認 -
Google「Use citations to find and verify sources」
https://support.google.com/gemininotebook/answer/16179559
└ Gemini Notebookの回答から引用元を開いて確認できる機能を確認 -
Microsoft「Copilot Notebooks licensing」
https://support.microsoft.com/en-us/microsoft-365-copilot/copilot-notebooks-licensing
└ Copilot ChatとMicrosoft Copilotで利用できる機能や参照元の違いを確認 -
OpenAI「Uploading files and audio to ChatGPT」
https://help.openai.com/en/articles/8555545-uploading-files-and-audio-to-chatgpt
└ ChatGPTへファイルを添付し、文書を要約・比較・分析できる機能を確認
著者より
大手法律事務所の事例と、中小企業が始める検証では、投資額も対象範囲も異なります。そのまま再現する必要はありません。最初に行うのは、AI製品の追加契約ではなく、「どの業務で、どの文書を参照させたいか」を決めることです。少数の文書で回答と引用元を確認すれば、自社に足りない準備を具体的に把握できます。
株式会社フィノジェン 代表 角 浩太
